ご存じの通り、医者になるためには医師国家試験に合格しなければなりません。しかし、医師国家試験に合格しても、すぐに臨床医として働いたり医院を開業したりすることはできません。その前に、研修医として一定期間働くことが法律で義務付けられているからです。
今回は研修医の期間、医師免許取得後の流れ、業務内容について詳しくご説明します。これから医者を目指す方、研修医として働かれる方の参考になれば幸いです。
研修医と一口に言っても、初期臨床研修と後期臨床研修という、2つの種類があることをご存じでしょうか。それぞれ何年勤務しなくてはならないのかを見ていきましょう。
まず初期臨床研修ですが、こちらは2年間と決められています。初期臨床研修中はいろいろな診療科をローテーションで回り、それぞれの診療科の基礎を身につけていきます。
2年間の初期臨床研修を修了すれば勤務医として働くことは可能ですが、実際は多くの方が、そのあと後期臨床研修を受けています。
後期臨床研修の期間はおよそ3年です。初期臨床研修と同じ研修医であることには変わりありませんが、後期では初期の研修で身につけた知識や技能をさらに磨き、自分が将来携わりたい診療科に特化した、より専門的な知識を身につけることができますので、医療現場での即戦力として働くことがほとんどです。
ちなみに、初期臨床研修でも後期臨床研修でも、給与が支払われます。しかし、初期臨床研修中は外勤などのアルバイトは認められていませんが、後期臨床研修では認められているため、給与面ではかなり差があると言えます。
2つの臨床研修の業務内容については、あとで詳しくご説明しますが、要するに研修医として一般的には、初期臨床研修で2年、後期臨床研修で3年の、計5年間働くのが一般的です。
医師国家試験に合格し晴れて医師免許を取得すれば、すぐにでも臨床医として開業できそうな気がしますが、実はそうではありません。
医師免許があれば血圧を測ったり、聴力や視力の検査をしたりといった簡単な診療行為を行うことは可能ですが、単独で内診をしたり脳波を取ったりするといった臨床行為は行えません。もちろん、患者さんに正式な病状の説明をしたり、死亡診断書を書いたりすることも禁止されています。要するに、医師免許を持っていても、できる医療行為はごくわずかしかないというわけです。
臨床行為を行えるようにするには、2年間の初期臨床研修を受けることが法律で義務付けられています。初期臨床研修を終えて初めて保険医として登録することができ、医者としての開業が可能になります。
初期臨床研修を終えた後、そのまま医者として独り立ちするケースもありますが、その後、認定医、専門医の取得を目指すために後期臨床研修を選択することもできます。後期臨床研修では、初期臨床研修で学ぶ各診療科の中から自分の適性を見極め、専門を決定し、その専門を深く学びます。
このように、医師免許取得後の流れは、大きく分けて二つになります。どちらかというと、後者の流れを選択する医者が多いようです。
研修医の業務内容は、あまり一般的には知られていないと思います。テレビドラマなどでは、ドクターのあとを追いかけて必死に医療を学んでいるイメージしかないという方も多いのではないでしょうか。そこで、研修医として実際にどんな業務内容をこなす必要があるのか、初期臨床研修と後期臨床研修に分けてご説明します。
まず、初期臨床研修は、大学病院あるいは厚生労働大臣の指定する病院で行われます。必修科目は内科、救急部門、地域医療の3つです。
また、外科、麻酔科、小児科、産婦人科、精神科の中から2つを選択することが義務付けられています。これは、各診療科の基礎を学び、一般的な診療に幅広く対応する力をつけるためです。
それぞれの診療科の専門医の指導の下、医者としての基礎知識、技能、態度を身につけることを目的としています。さらに、患者さんや家族の方との信頼関係の構築や、チーム医療を円滑に行うためのノウハウを学びます。初期臨床研修は、プライマリケアに重点が置かれているのが特徴です。
一方、後期臨床研修は、各大学の医局もしくは民間病院で行います。初期臨床研修中に見極めた希望の診療科に特化し、より専門的な知識を身につけるためです。
病院によって研修内容は違いますが、初期臨床研修で身につけた医者としての資質をベースに、感染防御やインフォームドコンセントといったより責任の重い業務を行い、さらに高度な医療知識を身につけることが求められます。
プライマリケアに重点を置いていた初期臨床研修と異なり、患者さんやご家族との良好な関係性の継続、学会発表や論文の執筆も業務の一つになります。さらに、初期研修医のロールモデルになり、チーム医療のリーダーとして行動することが求められます。
医学部に入学してから医者になるまで何年かかるかをご説明します。まず、医学部卒業後、初期臨床研修のみを受け、医者として働く場合を見てみましょう。
このケースでは、医学部の6年と初期臨床研修の2年間を合わせ、最短で8年が必要ということになります。つまり、18歳で現役合格した場合は、26歳で医者としてのスタートが切れるというわけです。
次に、初期臨床研修後、後期臨床研修も受ける場合を見てみましょう。
後期臨床研修を3年間受けたとすると、医学部入学から医者になるまでは最低11年が必要になります。18歳で医学部に入学し、医者として独り立ちするときには29歳になっている計算です。
つまり、初期臨床研修のみを受けた場合は最短で8年、そのあと後期臨床研修も受けた場合は、最短で11年が必要ということになります。実際は初期臨床研修のあと後期臨床研修も継続して受けるケースの方が圧倒的に多いため、一般的には医学部入学後から数えると、医者になるには約11年かかるとみて間違いありません。
もちろん、これはあくまで最短年数ですので、浪人した場合や医学部を留年してしまった場合、あるいは国家試験に失敗してしまった場合などは、さらに年数がかかります。
いかがでしたか?勤務医になるためには、研修医としての研鑽を積むことが重要であることがお分かりいただけたかと思います。
研修中と言っても、患者さんの大切な命を預かっていることにおいては医者と変わりありません。
そのため重い責任を負うことになりますし、毎日の研修に耐えうるだけの体力と精神力も必要となります。
しかし、研修で得た知識や技能、人間関係が自分の成長の糧になるのはもちろんのこと、患者さんの命を救うこと、より良い医療に貢献することにも必ず役立つはずです。充実した、実りの多い5年間を過ごしていただけることを心より願っています。