2022年度改定の新学習指導要領でどう変わる?これからの医学部受験

公開日:2022.07.27 更新日:2023.09.07
2022年度改定の新学習指導要領でどう変わる?これからの医学部受験

2022年4月から、高校でも新学習指導要領に基づく授業が開始されました。授業内容だけでなく、2025年に行われる共通テストにも影響があります。2021年入学の高1生が医学部に現役合格できなかった場合、新学習指導要領に基づく2025年実施の入試を受けなければなりません。いざという時のために知っておくべき、新学習指導要領によって変わったこと、現時点でわかる2025年実施の共通テストについて解説します。

新学習指導要領とは?

学習指導要領とは、全国の学校で一定水準が保てるように文部科学省が定めている教育課程の基準で、約10年ごとに改訂されています。

2022年4月の高1年生から、新学習指導要領による授業が開始されています。

学習指導要領の変化が求められる背景


学習指導要領が約10年ごとに改訂されているのは、時代の変化やそれに伴う社会のニーズに対応するためです。
今回、新学習指導要領へ改訂が行われた時代背景としては、以下のようなことが挙げられます。

  • グローバル化
  • スマートフォンの普及
  • ビッグデータ・人工知能(AI)の活用による技術革新 など

変化が著しい現代社会では、さまざまな変化に対応できなければ、これからの時代は生き残れません。
そのため、学校での学びが社会で生き残ることにつながるようにと、新たな内容へと変更されました。

文部科学省発行の新学習指導要領リーフレットには、その表紙に「生きる力 学びの、その先へ」と書かれています。

「主体的・対話的で深い学び」を実現する新学習指導要領


学習指導要領改訂の方向性について、文部科学省では以下のように3つの柱を定めています。

  • 学びを人生や社会に生かそうとする学びに向かう力・人間性等の涵養
  • 生きて働く知識・技能の習得

未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力等の育成
引用:文部科学省『新しい学習指導要領の考え方 -中央教育審議会における議論から改訂そして実施へ-』

新学習指導要領では、生きて働く知識・技能の習得など、新しい時代に求められる資質・能力を育成することを目標に掲げています。

知識量を削減するのではなく、質の高い理解を図るため学習過程の質的改善を行うこととしています。

その実現するために、「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ ラーニング)」の視点から学習過程の改善を実施するというのが、今回の学習指導要領改訂の指針です。

具体的にはどう変わった?新学習指導要領による高校のカリキュラム


今回の改訂における基本的な考え方として、以下の3つが挙げられています。

  • これまでの学校教育の実践や蓄積を活かし、子供たちが未来社会を切り拓くための資質・能力を育成する。その資質・能力とは何かを社会と共有し、連携する「社会に開かれた教育課程」を重視する。
  • 知識及び技能の習得と思考力、判断力、表現力等の育成のバランスを重視する現行学習指導要領を維持した上で、知識の理解の質をさらに高め、確かな学力を育成する。
  • 高大接続改革という、高等学校教育を含む初等中等教育改革と大学教育改革、大学入学者選抜改革の一体的改革の中で実施される。
参照:文部科学省『高等学校学習指導要領の改訂のポイント』

「主体的・対話的で深い学びの実現」に向けた授業改善として、各教科・科目で指導計画の作成時の配慮や、具体的活動方法の記載の増加が見られます。

また高校におけるカリキュラム・マネジメントの確立のため、教育課程に基づきながら、組織的かつ計画的に各学校の教育活動の質の向上を図る旨が記載されています。

教科や科目構成の改善に関して言うと、国語科では科目の再編が行われ、地理歴史科や公民科において科目の新設、共通教科での「理数」の新設などが挙げられます。

教科・科目の変更に関して、詳細は後述します。

2021年度入学の高1年生は要チェック!2025年度に受験する場合の経過措置について

2022年度入学の高1年生からが、新学習指導要領の対象となります。

しかし、2021年度入学の高1年生が医学部へ現役合格できなかった場合、2025年度に行われる新学習指導要領に基づいた入試に対応しなければなりません。

決して低いハードルとはいえない医学部進学を目指すからには、その点も少し頭に入れておく必要があります。
各大学の医学部においては、2025年度実施の入試についてほぼ明言されていません。(2022年7月時点)

そのためここでは、2025年度の共通テストの経過措置について解説します。

試験時間


出題教科・科目の試験時間については以下のとおりです。

教科 グループ 出題科目 試験時間
国語   『国語』 90 分
地理歴史   『地理総合、地理探究』

『歴史総合、日本史探究』

『歴史総合、世界史探究』

『地理総合、歴史総合、公共』

1科目選択 60 分

2科目選択 130 分

(うち解答時間 120 分)

公民 『公共、倫理』

『公共、政治・経済』

『地理総合、歴史総合、公共』(再掲)

数学 『数学Ⅰ、数学A』

『数学Ⅰ』

70 分
『数学Ⅱ、数学B、数学C』 70 分
理科   『物理基礎、化学基礎、生物基礎、地学基礎』

『物理』

『化学』

『生物』

『地学』

1科目選択 60 分

2科目選択 130 分

(うち解答時間 120 分)

外国語   『英語』

『ドイツ語』

『フランス語』

『中国語』

『韓国語』

※『英語』については、ICプレーヤーを使用する 試験も実施。

80 分

【ICプレーヤーを使用 する試験】 60 分

(うち解答時間 30 分)

情報   『情報Ⅰ』 60分

引用:文部科学省『令和7年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施大綱の予告(補遺)』

注目すべきなのは、国語、数学②、情報。
「国語」:現在の内容を維持した上で多様な文章を提示するため、試験時間は90分と、現行の共通テストより10分延長される
「数学②」:現行の共通テストより10分延長されているほか、現行の数学①と時間を統一される
「情報Ⅰ」:試験時間は60分で実施される

経過措置


2021年入学の高1年生(既卒生として2025年度共通テストを受験する者)は、以下のような経過措置科目が出題されます。

教科 グループ 経過措置科目 試験時間
地理歴史 『旧世界史A』

『旧世界史B』

『旧日本史A』

『旧日本史B』

『旧地理A』

『旧地理B』

1科目選択 60 分

2科目選択 130 分

(うち解答時間 120 分)

公民 『旧現代社会』

『旧倫理』

『旧政治・経済』、

『旧倫理、旧政治・経済』

数学 『旧数学Ⅰ』

『旧数学Ⅰ・旧数学A』

70 分
『旧数学Ⅱ・旧数学B』『旧数学Ⅱ』

『旧簿記・ 会計』

『旧情報関係基礎』

70 分
引用:文部科学省『令和7年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施大綱の予告(補遺)』

その他、理科と情報については、以下のように記載されています。
理科:学習指導要領及び教科書において扱いが異なる内容については、必要に応じて、旧教育課程履修者が選択解答可能な問題を出題する
情報:旧教育課程の選択必履修科目「社会と情報」「情報の科学」に対応する経過措置を講じる

なお2026年以降は、いずれの教科・科目においても経過措置は行われないとされています。

【共通テストは7教科21科目へ】新学習指導要領による変更点

新学習指導要領により、共通テストは6教科30科目から、7教科21科目に再編されます。

既卒生として2025年度の医学部入試を受験する可能性がある人は、各教科・科目の変更点について確認しておくとよいでしょう。

英語(外国語)


新学習指導要領では、6科目(「英語コミュニケーションⅠ」「英語コミュニケーショ ンⅡ」「英語コミュニケーションⅢ」「論理・表現Ⅰ」「論理・表現Ⅱ」「論理・表現Ⅲ」) が設定されています。

このうち「英語コミュニケーションⅠ」が必履修科目です。

▽共通テストの出題科目・範囲

出題科目 <5科目>

英語

ドイツ語

フランス語

中国語

韓国語

出題範囲(英語) 「英語コミュニケーションⅠ」「英語コミュニケーションⅡ」「論理・ 表現Ⅰ」の内容

※ドイツ語・フランス語・中国語・韓国語については、英語に準ずる。

国語


新学習指導要領では、6科目(「現代の国語」「言語文化」「論理国語」「文学国語」 「国語表現」「古典探究」)が設定されています。

このうち「現代の国語」「言語文化」 が必履修科目です。

▽共通テストの出題科目・範囲

出題科目 <1科目>

国語

出題範囲 「現代の国語」「言語文化」の内容

地理・歴史


新学習指導要領では、5科目(「地理総合」「歴史総合」「地理探究」「日本史探究」 「世界史探究」)が設定されています。

このうち「地理総合」「歴史総合」が必履修科目です。

▽共通テストの出題科目・範囲

出題科目 <3科目>

地理総合、地理探究

歴史総合、日本史探究

歴史総合、世界史 探究

出題範囲 地理総合、地理探究:「地理総合」「地理探究」の内容

歴史総合、日本 史探究:「歴史総合」及び「日本史探究」の内容

歴史総合、世界史探究:「歴 史総合」「世界史探究」の内容

選択の組み合わせの周囲点については次の「公民」でご紹介します。

公民


新学習指導要領では、3科目(「公共」「倫理」「政治・経済」)が設定されています。
このうち「公共」が必履修科目です。

▽共通テストの出題科目・範囲

出題科目 <2科目>

公共、倫理

公共、政治・経済

出題範囲 公共、倫理:「公共」及び「倫理」の内容

公共、政治・経済:「公共」「政治・経済」の内容

地理歴史と公民を組み合わせた科目として、「地理総合、歴史総合、公共」の1科目が設定されています。
その場合いずれか2科目が選択可能ですが、組み合わせ不可なパターンもあるので注意が必要です。

例えば、「地理総合、歴史総合、公共」のうち「地理総合 及び 公共」を選択した場合、「地理総合、 地理探究」は選択できません。

数学


新学習指導要領では、6科目(「数学Ⅰ」「数学Ⅱ」「数学Ⅲ」「数学A」「数学B」 「数学C」)が設定されています。

このうち「数学Ⅰ」が必履修科目です。

▽共通テストの出題科目・範囲

出題科目 <3科目>

数学Ⅰ、数学A

数学Ⅰ

数学Ⅱ、数学B、数学C

出題範囲 数学Ⅰ、数学A:「数学Ⅰ」「数学A」の内容

数学Ⅰ:「数学Ⅰ」の内容

数学Ⅱ、数学B、数学C:「数学Ⅱ」「数学B」「数学C」の内容

理科


新学習指導要領では、9 科目(「科学と人間生活」「物理基礎」「物理」「化学基礎」 「化学」「生物基礎」「生物」「地学基礎」「地学」)が設定されています。

「科学と人間生活」「物理基礎」「化学基礎」「生物基礎」「地学基礎」のうちから2科目(うち1 科目は「科学と人間生活」を含むこと)、または「物理基礎」「化学基礎」「生物基礎」「地学基礎」から3科目が選択必履修科目です。
▽共通テストの出題科目・範囲

出題科目 <5科目>

物理基礎、化学基礎、生物基礎、地学基礎

物理

化学

生物

地学

出題範囲 物理基礎、化学基礎、生物基礎、地学基礎:「物理基礎」「化学基礎」「生物基礎」 「地学基礎」の内容

物理:「物理」の内容

化学:「化学」の内容

生物:「生物」の内容

地学:「地学」の内容

情報

新学習指導要領では、2科目(「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」)が設定されており、このうち「情報 Ⅰ」が必履修科目とされています。

▽共通テストの出題科目・範囲

出題科目 <1科目>

情報

出題範囲 「情報Ⅰ」の内容

医学部受検で注意すべき点は?

既卒生として2025年度の医学部入試を受験する人は、どういったことに注意すべきでしょうか。

現役で医学部に合格できれば問題ありませんが、万が一のときに備えて、新学習指導要領に基づく試験を受ける際の注意点について知っておくとよいでしょう。

デジタルテクノロジー改革を推進する医学部では「情報」が入試に組み込まれる?


医学部を志す者としては、新学習指導要領によって新設された科目の「情報」に注目する必要がありそうです。

これからの社会に向けた人材を育成するために、すべての学生が身に付けるべき教養の1つとして、情報が挙げられます。

これは、データサイエンスやAI教育が普及しつつある今、大学教育を受ける上で欠かせない基礎的な能力であるといった考えによるものです。

医療現場では、高齢化や地域格差などの問題を抱えています。

AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、ビッグデータといった最先端のデジタル技術は、それらの課題解決に有効なものとして、すでに医療分野でも広く活用されています。

そのため医学部では情報に関する高度な知識が求められ、医学部入試においても重視されるのではと考えられます。

学科試験以外での評価がさらに重視される?


新学習指導要領では、小学校から高校までこの3つを育むようにカリキュラムが作成されます。

「学びに向かう力 人間性等」

「知識・技能」

「思考力・判断力・表現力等」

参照:『平成29年度小・中学校新教育課程説明会(中央説明会)における文科省説明資料』

医学部入試に関わるものとしては、「学びに向かう力 人間性等」「思考力・判断力・表現力等」に注意すべきでしょう。

これらの能力を測るために、面接試験や調査書、活動報告書などがさらに重視されるのではと考えられるためです。

また、その理由としては、人命を扱う仕事をする医師には患者や医療スタッフとのコミュニケーション能力、協調性が不可欠だからです。

医学部入試では全ての大学で面接試験が実施され、また多くの大学で小論文試験が課されています。

これまでの医学部入試においても、英語・数学・理科で合格点を取っていても、面接や小論文で評価が低い場合、不合格となる可能性がありました。

しかし、この新学習指導要領による入試の変化によって、さらにそれらが重視される可能性が高まります。
加えて、高校生活における調査書や活動報告書なども、重視されるようになると予測されています。

医学部の倍率に変化は見られる?


少子化が進む中でも、医学部では入試倍率が下がることはありません。

医学部が安定した人気を誇り続ける理由としては、以下のようなことが挙げられます。

  • 女子の医学部進学者が増加傾向にある
  • 東大・京大などの難関大志望者が医学部に志望変更する
  • 医学部の定員が増えている
  • 地方での医師不足により需要が高まっている

またコロナ禍により医師を志す子どもが増えていることから、今後も医学部志望者の増加が見込まれます。

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